人生100年時代構想会議と経財白書が発表したシニアのための「働き方改革」の中身とは?
はじめに
「人生100年時代」に向けて、人生における高齢期の経済的安定が重要な課題となっています。 そのための環境整備として、最近になって政府から「人生100年時代」を見据えた高齢者向けの指針が相次いで発表されました。
一つ目は2018年の年初に発表された高齢者政策の新しい指針「高齢社会対策大綱」です。
基本的考え方として年齢によらず意欲・能力に応じて働くことのできるエイジレス社会の実現を掲げています。
そして二つ目は「人生100年時代構想会議」における「人づくり革命 基本構想」 です。
高齢者の雇用を促進し、社会人が学び直すリカレント教育をする必要があるとしています。
最後三つ目は 2018年度「経済財政白書」です。
人生100年時代には年齢に関係なく、学び直し「リカレント教育」が大切で、若者から高齢者まで、すべての国民が学び直しによって能力を高めることにより、 AI に代替されにくい能力を身につけることができるとしています。
目次
1 「高齢社会対策大綱」の目的と基本的考え方
「65歳以上は高齢者」という固定観念からの転換
65歳以上を一律に「高齢者」と見る傾向は現実的なものでなくなりつつあると指摘し、画一的な高齢者イメージからの転換を打ち出しています。
要するに従来の65歳以上を「高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」などと呼称する画一的な年齢区分を見直しましょうということです。
何歳になったから高齢者です、というわけではないのです。
70歳でもそれ以降でも、個々人の意欲能力に応じた力を発揮できる時代が到来しており、意欲のある高齢者の能力を発揮できる労働環境を整えることが必要であるとしています。
そしてこの新たな課題に産業界が応えることで、豊かな社会作りが実現され、産業界の発展の機会に繋がるとしています。
ですから産業界が動かなければこの大綱の目的は画に描いた餅となってしまうわけです。
年金受給開始年齢繰り下げ「70歳超も選択肢」
公的年金の受取開始年齢は原則65歳ですが、希望すれば60~70歳の間から月単位で選ぶことができます。
制度改正では高齢者の就労を促すため、受給開始年齢をさらに遅らせ、70歳より後にできるという選択肢が設けられる見通しとなりました。
現行では年金の受け取り開始が65歳から1か月遅くなるごとに毎月の支給額が0.7%ずつ上乗せされています。 制度改正後は70歳超での開始を選択した場合、毎月の上乗せ率をさらに増やす方向で検討する方針のようです。
その他高齢者の就労率を増やすための政策
1 定年延長や65歳以降の雇用延長に取り組む企業への支援を拡充すること
2 ハローワークに「生涯現役支援窓口」を設置すること
3 日本政策金融公庫からの融資を含め、企業意欲のある高齢者の資金調達と起業
支援をすること
4 高齢者の就業率を向上させるなどの数値目標を設定すること
具体的には60~64歳の就業率を2020年度に67%に、社会活動を行う高齢者の割合を同じく2020年度までに80%にそれぞれ上昇させる、となっています。
人工知能 AI など新しい科学技術の活用促進
科学技術の活用策としては、高齢者の生活の質の維持・向上と介護の負担軽減に役立つロボット開発を促進し、過疎地での移動手段の確保などのための自動運転システムの開発を進め、新たな移動サービスを2025年度をめどに実現するとしています。
2 「人生100年時代構想会議」 基本構想
人生100年時代を見据え、高齢者雇用を促進する必要があるため、働き方改革実行
計画に盛り込まれた高齢者の就業促進政策に取り組みます。
65歳以上への継続雇用年齢の引き上げに向けた環境整備
意欲ある高齢者に働く場を準備することは、 働きたいと考える高齢者の希望を叶えるためにも官民挙げて取り組まなければならない国家的課題であるといえます。
実際、高齢者といわれる人たちの身体年齢は若くなっており、知的能力も高く、65歳以上を一律に高齢者と見るのはもはや現実的ではありません。
年齢による画一的な考え方を見直し、全ての世代の人々が希望に応じて意欲・能力を活かして活躍できるエイジフリー社会を目指します。
こうした認識に基づき、65歳以上への継続雇用年齢の引き上げに向けて環境整備を進めます。
その際、高齢者は健康面や意欲能力などの面で個人差が存在するという高齢者雇用の多様性を踏まえて、一律の処遇ではなく、成果を重視する評価・報酬体系を構築することにします。
そのため、高齢者に関わる賃金制度や能力評価制度の構築に取り組む企業に対し、その整備費用を補助します。
高齢者の雇用促進策としてのトライアル雇用
高齢者の雇用促進については、人口減少の中で潜在成長力を引き上げるため、官民で取り組むべき国家的課題と位置づけました。
具体策としては、高齢者の「トライアル雇用」を促進するほか、中高年を対象とした基礎的な IT ( 情報技術 ) ・データスキルを習得するための教育訓練を拡充をすることにより中高年の新たな活躍を支援します。
また地域医療や介護のために必要な人材として、高齢者の介護分野への参入を促進します。
社会人が学び直す (働きながら学ぶ) 、いわゆる「リカレント教育」( 生涯学習 ) を 強化するため、教育訓練給付金制度を拡充します。
「人生100年時代構想会議」では、人生100年時代に求められるのは、業界・業種・職種を超えて通用するスキルであるとしています。
このスキルを人生100年時代の ゛社会的基礎力 ゛と位置づけており、
これには次の三つの力が含まれるとしています。
・前に踏み出す力 主体性、実行力など
・考え抜く力 課題発見力、想像力など
・チームで働く力 発信力、柔軟性、ストレスコントロール力など
3 「経済財政白書」
内閣府は2018年8月、年次経済財政報告いわゆる「経済財政白書」を公表しました。
少子高齢化などを背景とする人手不足に対し、人工知能 AI など新しい技術を活用するべきですが、日本の取り組みは遅れていると指摘しています。
また、人材への投資は生産性向上につながるとして、企業に積極的な投資を促しました。
白書は、適切な分析や伝達ができる能力や、IT の専門人材の育成がより重要だと
指摘しています。
また、 AI などの導入が進んだ場合、雇用に与える影響も分析しています。
AIなどの新技術にも代替されにくい能力や技能を持った人材を育てることが急務であると強調しています。
デジタル時代に必要となるスキルとは何か
傾向としてはマネジメント能力、IT に関する専門的な知識と技能、創造力、分析力、思考力、コミュニケーション能力、 アイディア力などがより必要とされています。
逆に営業力、接客スキルや定型的な業務を形式的にこなすだけの能力などの需要は低いようです。
人生100年時代には学び直しが大切なこと
日本人は健康寿命が長く、世界有数の長寿社会を迎えているため、若者から高齢者まですべての国民に活躍の場があり、全ての人が元気に活躍し続ける社会を構築することが重要な課題になっています。
こうして人生100年時代を見据え、年齢にかかわりなく学び直し「リカレント教育」を行って自己の能力を高めることには大きな意義があります。
学び直しによって転職や起業を行うなどの多様なキャリアを形成することができ、人生の再設計が可能となるからです。
技術革新が進む中で学び直しをすることによって、新技術に対応したスキルや、 AI などの機械に代替されにくい能力を身につけることが可能となるのです。
学び直しと言っても大学などに通って勉学に専念することだけが学び直しというわけではありません。
通信教育やオンライン講座を受けること、またセミナーへの参加や書籍による独学も学び直しといえますので、その方法は様々です。
高齢者が働きやすい環境整備へ
労働意欲もある元気な高齢者が労働市場で一層活躍できる環境整備は、少子高齢化がより進行する日本経済にとって極めて重要なことです。
高齢者については高い健康寿命と人手不足を背景に労働参加が進んでいますが、IT スキルには問題を抱えています。
新技術の活用とIT スキルを向上させる取り組みにより、高齢者でも柔軟に無理なく働ける環境を整備することで、年齢・性別に応じそれぞれが持つ能力を十分に発揮できる形での労働参加が進展すると考えられています。
高齢者の活躍を促すためには、個々人の健康を増進することに加えて、年金制度の設計や企業の人事制度が必要となると考えられます。
企業での定年年齢の引き上げや継続雇用制度等を整備することは、就業意欲のある高齢者の就業を促すようなバランスの取れた制度設計を行うことになるため、高齢者にとって、より年齢に縛られない働き方が可能となるということです。
以上、今年に入ってから相次いで政府から発表された「高齢者のための働き方改革」について指針・大綱・構想・白書などにどのように記述されているかについてご紹介いたしました。
会社に定年はあっても、人生に定年はない!!
人生100年時代構想会議と経財白書が発表したシニアのための「働き方改革」の中身とは? 終わり