パワハラ防止法がついに成立しました しかし罰則規定なしの骨抜き法でした!

パワハラ防止法がついに成立しました しかし罰則規定なしの骨抜き法でした!

[2020年3月 加筆修正 最新版]

はじめに

パワハラ防止対策の関連法がついに可決、成立しました !

全国で大きな社会問題となっている、職場でのパワーハラスメント (パワハラ) 防止を企業に義務付けるハラスメント規制関連法案がついに2019年5月29日、通常国会開催中の参議院本会議で可決、成立しました。

今回成立したパワハラ防止法は、正式には「労働施策総合推進法」という法律の改正法で、その他にも関連する「男女雇用機会均等法」「女性活躍推進法」といった法律の改正法も成立しました。

今回の法制化の一番のポイントは、「あらゆるハラスメントを許さない」という社会的な機運を背景にして、これまで企業には認められていなかった「職場のパワハラ防止のための対応策」が企業に義務づけられたということです。 

現在想定されている、企業に義務づけられたパワハラ防止策の内容とは

相談窓口の整備

パワハラが発生した際の対処方針の策定

加害者への懲罰規定などを盛り込んだ就業規則の策定

再発防止策を盛り込んだ社内規定の策定

社内研修、調査体制の整備

相談者のプライバシーの保護

被害者に対する不利益な取扱いの禁止 などです

そして今回の改正法では、今まで法律上の定義がなかった「パワハラの定義」について、『優越的な関係を背景に、業務上必要な範囲を超えた言動で、労働者の就業環境を害すること』と、初めて定義され、「行なってはならない」と明記されました。

「就業環境を害すること」とは言い換えると、「身体的、精神的な苦痛を与え職場環境を悪化させる行為を行うことという意味に捉えることができます。

ただ一方で、「業務上の指導との線引きが難しい」とする企業側の意向を受けて、パワハラ行為自体に罰則を与える規定は見送られることになりました。 

残念な結果となりましたが、今後「罰則もない、こんな実効性のない骨抜き法では全然意味がないではないか」という強い非難や指摘を受けるであろうことは間違いのないところでしょう。

今後は法令に従わない企業には厚生労働省が改善を求め、それにも応じない悪質な企業には企業名を公表するなどして、パワハラ防止策の実施を促進することになります。

まずはパワハラ対策についての新たな「指針」を整備するのが当面の課題となりそうです。  

パワハラ対策の法制化をめぐる議論では、「パワハラ」と「業務上の指導」との線引きが難しいとの指摘がありました。 そこで今回の法令成立後・・・

パワハラの具体的な事例、つまりどんな行為がパワハラにあたるのかについて「業務上の指導」との線引きを示すこと、そして各企業に義務付けられる予防対策については、法令の成立後に厚生労働省が作る「指針」( =ガイドライン) によって示されることになりました。

「指針」は、今回の法律改正後、2020年6月の施行までに厚生労働省が策定し、年内にも公表される予定です。

この法律の施行は、大企業では2020年 (令和2年) の6月からになります。

また、中小企業については対策の負担を考慮して、施行から最長2年の猶予期間を設けることになりますので、2022年 (令和4年) の4月からの施行予定になります。

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目次

パワハラ防止法成立までの経緯

今回のパワハラ防止法成立に至るまでの経緯を振り返ってみたいと思います。

◯2018年9月 パワハラ防止へ法整備始まる

2018年8月から厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会の分科会で、経営者と労働者の代表や有識者らが集まり、パワハラ防止策についての議論がをスタートしました。

2018年9月、厚生労働省はいよいよ本格的に職場でのパワーハラスメントの防止策づくりを企業に義務付ける法律を整備する検討に入りました。  

企業の相談窓口の設置や社内規定の整備などを想定しており、2019年の通常国会への関連法案提出を目指していました。

パワハラを含めた「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数は年々増える一方で、2017年度には約72,000件に上り、6年連続で最多を更新しています。 

また、パワハラなどで精神疾患を発症し、労災認定された件数も過去最多の88件にも上りました。いずれも増加傾向にあります。

パワハラに対する社会的関心が高まった影響が大きく、看過できない状況であることは間違いのないことでした。

大企業では相談窓口設置などの対策が進んでいますが、中小企業では遅れが目立っています。 

ただ、パワハラの実態把握や対応には専門的ノウハウが必要なため、経営者側は中小企業などの負担が大きいとして法制化に難色を示していました。 

しかし、厚労省は「実効性を持たせるには法律に基づく強制力が必要である」と判断したようです。

パワハラは被害者の尊厳を傷つけ、労働意欲を低下させ、うつ病などの引き金にもなります。 休職や退職、自殺に至ることもあります。

職場の雰囲気を悪化させ、生産性の低下や人材流出を招きかねません。経営上の損失も相当大きなものになります。

ですから、厚労省は法整備が必要だと判断したのです。

新しい法律はパワハラの事実関係を速やかに調査確認して、被害者の事後的な救済だけではなく、相談窓口の設置やパワハラの再発防止策を社内規定に盛り込むように整備することを企業に義務付けるものです。

企業への罰則は求めない方向ですが、悪質な企業は社名を公表して抑止効果を高めることや、パワハラ加害者の処分といった適切な人事措置を求めることも検討するようにしていました。

まずは労働政策審議会で2018年度期末までに対策をまとめ、2019年の通常国会での関連法案の提出を目指していたわけです。

◯2019年2月 パワハラ対策法案 要綱了承される

厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会は、2019年2月14日、各企業にパワハラ対策を義務づける 「労働施策総合推進法」の改正案などの要綱を了承しました。

厚労省はこの法改正案を今国会(2019年の通常国会)に提出しました。
これまでパワハラを直接規制する法制度がありませんでしたが、成立すれば職場環境の改善に一歩前進することになります。

◯2019年3月 パワハラ対策法案 閣議決定される

2019年3月8日、政府は長い間待ち望まれていたパワーハラスメント対策として、パワハラを防ぐ措置を企業に義務付ける法案を閣議決定し、今の通常国会での成立を目指すことになりました。

根拠となる法案は「労働施策総合推進法」という法律の改正案です。

法案が成立すると、大企業では2020年6月から (中小企業については対策の負担を考慮して、施行から最長2年の猶予期間を設けるため、2022年4月から) 施行される見込みになっています。

この改正案の中に改めて「パワハラの定義」が盛り込まれています。

法案が成立すると、企業にはパワハラを受けた人のための相談窓口などを設ける必要があり、パワハラをした社員の処分内容を就業規則の中に設けるように義務付けられることになります。 
また、相談をした人のプライバシーの保護なども盛り込まれる見込みとなっています。
これで、働きやすい職場環境の整備に向けて一歩前進することになります。

◯2019年4月 衆議院本会議での審議始まる 

       4月25日法案可決、成立 参議院へ回される

◯2019年5月 参議院本会議での審議始まる 

       5月29日法案可決、成立

こうして改正法が成立したのでパワハラ行為の違法性や企業の防止義務が明確になり、違反企業に対しての行政指導や是正勧告も可能になります。 

また、被害者による民事訴訟が増えていくことも予想され、パワハラ発生により受ける企業の損失はこれまで以上に大きくなるものと予想されます。

ですから、これからはパワハラ防止のための対策を何も取らない企業はその抱えるリスクは非常に大きなものになるだろうと予測できます。


これまではパワハラを直接規制する法制度がありませんでしたが、防止法が成立したので職場環境の改善に一歩前進することになります。


これまではパワハラをしてはいけないことであるとの認識はありましたが、何がパワハラで何がパワハラでないかの線引きが曖昧でした。

なおかつ直接規制する法制度がありませんでしたが、今回の法改正によって「パワハラの定義」が定められたことにより、企業内でも就業規則などが作りやすくなりました。

パワハラ防止法に罰則規定が盛り込まれなかった理由

有名企業の場合、パワハラで社名が公開されるとイメージが悪くなり影響を受けますから一定の抑止効果がありますが、こうしたイメージの悪化が気にならない中小企業の場合だと、罰則規定がないので十分な対策を取らない可能性があります。

パワハラ防止法に罰則規定が盛り込まれなかったのは、「業務上の適正な指導とパワハラとの境界が曖昧である」という経営者側 (企業側) の意見にも配慮した結果であるとされています。

パワハラと認定されるのを恐れるあまり、トラブルを避けようと、部下への注意をためらう管理職が増え、「人材育成に支障が出る」との懸念を示す企業も多いからという理由もあるようです。

これには日本独特の雇用関係も影響しているようです。

例えば欧米では一定の水準に達しない社員はいつでも解雇できるので、上司 (管理職) がわざわざ部下の社員を精神的に追い込む合理的な理由はありません。

しかし日本では、一定の水準に達しない社員であっても法律上すぐには解雇することはできませんので、上司の中には、精神的にプレッシャーを与えてなんとか成果を上げさせようとする人が、ある一定数は必ず出てきてしまいます。

これが部下に対するパワハラとなって現れてくるのです。 

カスハラ、セクハラ、マタハラ対策も

指針の中には、今後「取引先からのハラスメントや顧客からの迷惑行為に関するもの=カスタマーハラスメント (カスハラ)に関する対策も定める予定です。

またフリーランス労働者へのパワハラ就職活動中の学生 (就活生) 向けのセクハラ対策も盛り込み、検討する予定です。

また、パワハラ防止法以外にもセクシュアル・ハラスメント (セクハラ) や、妊娠・出産した女性に嫌悪感を与えるマタニティー・ハラスメント (マタハラ) についても、それぞれ「改正男女雇用機会均等法」「改正育児・介護休業法」が成立し、被害の相談を理由にした解雇を始め、従業員を不利に取り扱うことが禁じられることになりました。

セクハラマタハラについてはすでに企業に防止措置を講ずる義務があるのですが、女性や妊婦に対して今以上に言動に注意を払うよう、企業の経営者や他の労働者らの責務を明確にしました。

もう一つ改正された法律に「改正女性活躍推進法」があります。

これまで大企業に限定していた女性社員の登用・昇進などに関する数値目標の策定義務を中小企業にも広めようとするもので、これまでの従業員301人以上から101人以上の企業に広げることになりました。

指針の公表はまだ後のことになりますが、おおよそのところは推測できますので、このブログでは一足先にそれらの内容についても詳しく述べさせていただきます。

指針 ( =ガイドライン) の内容を推測してみる

上の「パワハラの定義」を満たすパワハラ行為について、具体的にどんな行為が該当するのか、また防止策の具体的な項目については法改正後に「指針」を作って決めることになっていますが、実際には年内2019年11月頃をメドに、法令が施行される2020年6月までには間違いなく公表されることになります。

それではその指針の中にどんなことが書かれるのでしょうか?

今現在、すでに厚生労働省から公表されている各種資料を基に、私なりに指針の内容として、以下の事柄に類似する事が明記されるのではないかと推測しましたので詳しく述べていきたいと思います。

パワハラを予防し解決するための7つの取組み

個々の企業においてパワハラ対策の基本的な枠組みを構築するためには、以下の7つの取り組みについて実施されなければならないということです。

①トップのメッセージ

組織のトップが、「職場のパワハラは絶対に職場からなくすべきである」ということを明確に示す

「パワハラがあってはならない」という組織のトップ(経営者) の方針を明確にし、全従業員が取り組むべき重要な会社の課題であるということをメッセージとして従業員に発信するようにする。

メッセージの発信とともに具体的活動が早急にできるよう準備をしておくことが望ましい。

②ルールを決める

就業規則にパワハラの禁止や懲罰規定を設けるなど、加害者を厳正に処分するルールを定める 

ルールは従業員にとってわかりやすく、できる限り具体的な内容とすること。

就業規則などにルールを盛り込む場合には、労働者の代表などの意見を聞くことが求められています。 就業規則変更の目的や意義を十分に伝え意見交換した上でルールを決めましょう。

また就業規則を変更した場合はその内容の周知が義務付けられています。
従業員への説明会や文書の配布なども忘れずに実施しましょう。

③実態を把握する

従業者アンケートを実施することにより、より正確にパワハラの実態を把握する

職場のパワハラ防止対策を効果的に進められるように、職場の実態を把握するためのアンケート調査を早い段階で実施します。

アンケート調査はパワハラの有無や従業員の意識の把握に加え、パワハラについて職場で話題にしたり、働きやすい職場環境づくりについて 考える貴重な機会になります。

アンケートでの実態把握は対象者が偏ることがないようにしましょう。

より正確な実態把握や回収率向上のために、匿名での実施が効果的になります。

④教育をする

管理監督者と一般従業員とに分けて、管理職研修、従業員研修を実施する

教育のための研修は可能な限り全員が受講し、かつ定期的に実施するようにすることが重要です。

中途入社の従業員にも入社時に研修や説明を行うなど、もれなく全員が受講できるようにしましょう。

研修内容にはトップのメッセージ内容を含めるとともに、会社のルールの内容、取り組みの内容や具体的な事例を加えると効果的です。

⑤周知をする

組織の方針、ルールや相談窓口などについて継続して積極的に周知に取り組む

パワハラの防止に向け、組織の方針・ルールなどと共に相談窓口やその他の取り組みについて周知することが必要です。

そのためにもトップのメッセージやルール、パワハラ防止対策の取り組みなどを従業員にしっかりと伝え、理解してもらうことが重要です。

その手段として研修などの教育も効果的と言えます。

⑥相談や解決の場を提供する

従業員が相談できるようにハラスメント専用の相談窓口を設置し、職場の対応責任者を決める 

企業の中だけでなく外部の専門家とも連携する

従業員が相談しやすくなるように、できるだけ初期の段階で気軽に相談できる仕組みを作ります。

相談者の秘密が守られることや不利益な取扱いを受けないこと、相談窓口でどのような対応をするかを明確にしておきましょう。

相談を受けた場合、すばやく丁寧に事実確認などの調査を行う。

相談者 (被害者) のプライバシーを保護する。

相談したことを理由に、事業主によって不利益な扱いをされないように社員に明示する → パワハラ相談等をしたことによる解雇などの禁止

⑦再発防止のための取り組み

 パワハラ行為者に対する再発防止研修を行う

 職場環境改善のための取組を行う

取り組み内容の定期的検証と見直しを行うことで、より効果的な再発防止策の策定実施に取り組みましょう。

パワハラ問題が解決した後も同様の問題が発生することを防ぐため重要なことは、取り組みを継続し、従業員の理解を深め再発防止につなげることです。

パワハラ行為者を処分するだけでは最悪の場合同じことが再び繰り返されるという可能性が残ります。

これを防ぐために、その後の職場が相談被害者にとって安全で快適な環境となっているか、パワハラ行為者が同様の問題を再び起こす恐れはないか、新たなパワハラ行為者が発生する環境となっていないか、についても検討しておきましょう。

(以上、厚生労働省「明るい職場応援団」HP ↓ より)

パワハラ法制化に反対する人たちがいた !

今回の職場のパワハラ防止義務の法制化に際して、厚生労働省の審議会ではパワハラ行為をどのような法令によって規制していくかについて何度も審議されましたが、実は規制に反対する人たちも多くいたことが分かっています。

パワハラ規制に反対したのは誰だったのか?

世界各国の標準がハラスメント行為を違法とし、禁止する規定を採用していることを考えると、最低でも事業主にパワハラ防止の配慮をすべきと法律に明記する規定を導入すべきであったと思われます。

ところが議事録によると、そのような規定の採用には懸念があり、まずは事業主による一定の対応措置をガイドラインで明示すべきという対応案が出されたと記録されています。

つまり法律にパワハラの禁止規定を設けるのではなく、セクハラと同じく事業主に対する措置義務の法制化にとどめ、拘束力のないガイドラインの導入を提案している人たちがいたのです。

一体誰が禁止規定に反対していたのかと言うと、それは経団連や日本商工会議所などのような業界団体つまり経済界の代表の人たちであることがわかりました。つまり、経営者側 (企業側) の代表です。

学者などの有識者や労働組合の代表は規制に賛同していたのに、経済界の人たちは「具体的にどのような行為がパワハラに当たるのかという判断が難しい、つまりパワハラと正常な業務との線引きがあいまいであるから反対すると言っていたのです。

経済界の人たちの本音は、従業員にパワハラの被害を訴えられた場合の事実関係の認定が難しい、つまり裁判になって損害賠償を申し立てられるのが怖いからというものなのです。だからガイドラインにとどめておけと言っているのです。 

なんとも情けない話ではありませんか。

パワハラ上司

改正「労働施策総合推進法」『基本方針』の内容

職場でのパワーハラスメント(パワハラ) を防ぐため、厚生労働省は企業に対し防止策に取り組むことを法律で義務付ける方針を固め、今回その法制化が実現したわけです。

その根拠となる法律が、改正「労働施策総合推進法」です。

「労働施策総合推進法」という法律は、現在の安倍内閣が押し進める『働き方改革』を推進するために作られた法律で、従来は「雇用対策法」という名称で呼ばれていたものを改正して2018年に制定されたばかりものでした。

今回はその制定されたばかりの法律をさらに改正したものです。

そしてこの法令の中で、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするために、必要な労働施策の総合的な推進に関する基本方針』を定めなければならないとされました。

その『基本方針』の中に「パワハラ」に対する対策が盛り込まれているのです。

『労働施策基本方針』 [ 2018.12.18 閣議決定 ]

職場のハラスメント対策の強化

職場におけるハラスメントは、労働者の尊厳や人格を傷つけ、職場環境を悪化させるもので、あってはならないものである。

そのため、企業等におけるパワーハラスメント対策の周知・啓発及び自主的な取り組みの支援を進めるとともに、職場のパワーハラスメント防止対策が実効性のあるものとなるよう、その強化に向けた検討を進めるものとする。」
(パワハラに関する部分のみ抜粋) と、決められました。

パワーハラスメントの定義

この「労働施策基本方針」の中に厚生労働省が考えた「パワハラの定義」が盛り込まれています。

※今回成立した改正「労働施策総合推進法」における法律上の定義とは少しだけ定義の表現方法が異なっていますのでご注意ください。内容はほとんど同じです。

パワハラとは

 職場において行われる優越的な関係を背景として

2 業務上の必要かつ相当の範囲を超えた言動

3 相手に身体的もしくは精神的な苦痛を与えることである。

  と定義されています

上の3つの要素をすべて満たしたものが職場のパワハラの概念として認定されるということなのです。

それでは3つの要素に当てはまる行為の主な例を見てみましょう。

 「職場において優越的な関係を背景として」とは、

  • 抵抗または拒絶することができない、職務上の地位が上位の者との関係に基づいて行われること
  • 上位の者だけではなく、同僚または部下の集団による行為で、これに抵抗または拒絶することが困難であること

ここで注意すべきは「職場内での優位性」です。これは単に上司と部下という地位だけを意味しているわけではなく、職務の経験年数、専門知識、人間関係など様々な優位性が含まれています。

例えば、英語が上手である、パソコンが得意である、または業務に関する知識と経験が深いなどといったことでも「優位性」があるといえるのです。

2 「業務上の必要かつ相当の範囲を超えた言動」とは、

  • 業務上明らかに必要性のない行為
  • 業務の目的を大きく逸脱した行為
  • 業務を遂行するための手段として不適当な行為
  • その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超えている行為

    などのことです。

3 「身体的もしくは精神的な苦痛を与えること」とは、例えば、

  • 暴力により傷害を負わせる行為
  • 著しい暴言を吐くこと等により人格を否定する行為
  • 何度も大声で怒鳴ったり厳しい叱責を執拗に繰り返す等により、恐怖を感じさせる行為
  • 長期にわたる無視や能力に見合わない仕事の付与等により、就業意欲を著しく低下させる行為 などのことです。

パワハラの6つの行為類型 とその事例

(1) 身体的な攻撃  暴行・傷害

[例]

  • 上司が部下に対して殴打したり足蹴りをしたりする
  •  物や書類を部下に向かって投げつける
  •  物や書類を壁に向かって投げつけるなど、体に当てなくても暴力的な威嚇行動はすべてここに入る

(2) 精神的な攻撃  脅迫・名誉毀損・侮辱・暴言 

 

[例]

  • 上司が部下に対して人格を否定するような発言をする
  • 同僚の目の前で必要以上に長時間にわたり繰り返し叱責したり罵倒する
  • 「バカ」「アホ」「のろま」などの侮辱する言葉を毎日のように浴びせる
  • 「辞めてしまえ」「クビにするぞ」などの、社員としての地位を脅かす言葉を言い放つ
  • 「お前は人として最低だ」「無能な奴め」などの侮辱や名誉毀損にあたる言葉も全てここに入る

(3) 人間関係からの切り離し  隔離・仲間外し・無視 

 

[例]

  • 自分の意に沿わない社員に対して、仕事を外し、長期間にわたり 一人だけ別室に隔離したり、強制的に自宅待機を命じたりする
  • 話しかけても無視するなど、明らかな仲間外れ行為を行うことはすべてここに入る

(4) 過大な要求  

  業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制

 

[例]

  • 上司が部下に対して長期間にわたる肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務や直接関係のない作業を命ずる。
  • 能力や経験を超える無理な指示で他の社員よりも著しく多い業務量を課す
  • 業務上の些細なミスについて見せしめのために始末書を何枚も提出させるなどの懲罰的行為を行う

(5) 過小な要求  

  能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じること
  仕事を与えないこと 

 

[例]

  • いわゆる、仕事を干す行為
  • 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる
  • 管理職である部下を退職させるため、誰でも遂行可能な業務をわざと行わせたりする

(6) 個の侵害  私的なことに過度に立ち入る

 

[例]

  • 有給休暇の取得理由を執拗に聞いたり、プライベートについてしつこく尋ねたりする
  • 飲み会への参加を強要する
  • 服装や見た目を人前でからかうなど、管理職としての権限を悪用して私的なことに立ち入ったり、不適切な発言を行ったりする
  • 思想信条を理由として、集団で一人に対して職場内外での継続的な監視をしたり、他の社員に接触しないよう働きかけたり、許可なく写真撮影をしたりする

(イラスト図引用 : 日本経済新聞)

そもそもパワハラとは何か? 分からずに悩む管理職がいっぱいいる

今ではパワーハラスメント(パワハラ)という言葉を知らない人は世の中に誰もいません。

では、そもそもパワハラとは何でしょうか? 

簡単に言うと、同じ職場で働く者が、上司と部下など職務上の地位や雇用形態または専門技能や実績などの優位性を利用して、他の者に対し、仕事としての必要な範囲を超えて、精神的、肉体的な苦痛を与える行為のことです。(定義より)

「暴行などの身体的攻撃」はもちろん、 「暴言や侮辱などの精神的な攻撃」「無理な仕事を与える」「個人のプライバシーに過度に立ち入る」といったことなどもパワハラに含まれます。

問題なのは、パワハラはどこの職場でも起こりがちなことで、実は誰でもパワハラ加害者になる可能性があるということなのです。

大きな企業であれば、管理職のうち必ず何人かはパワハラを行う素質を持っているものなのだそうです。

こうした人たちが、特に攻撃的な性格を持つ特殊な人格なのかというと、そうでもありません。

ほとんどの場合は普通の人なのです。家に帰れば普通の子煩悩な父親だったりするのです。

では、そんな普通の人がなぜパワハラ加害者になってしまうのかというと、 組織の中にある精神保健上問題のある、良くない環境背景にあり、そのことにより典型的なパワハラを行う事例が生まれてくるというのです。
良くない環境とは、ズバリ、営業ノルマを含めた上からの圧力であることが多いようです。

多くのパワハラ加害者は努力家で成績の良い中間管理職です。
上からの命令・圧力を下に振り分けることが仕事であり、自分が思う存分言える人を無意識に見つけ出す行動に出てしまうのです。
そうした人を見つけては叱咤激励するつもりで指導しているつもりが、本人の気づかぬうちにパワハラ行為を行っているわけです。

パワハラの真の問題は、こうしたことを続けていくうちに、加害者が相手に対する怒りの感情を無意識のうちに強め、通常ではありえないような言動へどんどんエスカレートしてしまうことなのです。 

最初は職場を少し緊張させるだけの言動に止まっていても、やがて同じ場所で働くスタッフ全体の士気を低下させ、最後には周囲からの評価を下げるような行動へつながっていくといわれています。

パワハラは本人が気づかないうちにエスカレートしていくのです。

業務上必要な注意を相手にしているが、周りの人は違和感を覚えている

業務上必要な注意を相手にしているが、周りの人は表情が厳しくなる

業務上は不必要な言動を相手やその周囲の人に対して行ってしまう

ただ相手をおとしめたいという思いから、言動が一層激しくなる

というふうにどんどんエスカレートしていくのです。

パワハラ加害者にならないために
こんな心の状態になったらご用心! チェックポイント8項目

・激しく叱ることが部下のためだと考えている

・出来の悪い部下を割り当てられてしまったと思ったことがある

・どうしても目障りに感じて、無視しがちな部下がいる

・仕事のできない部下は仕事を減らすのが効率的だと思う

・学校やスポーツで体罰をする指導者の気持ちが理解できる

・自分は短気で怒りっぽいと思う

・職場で部下とのコミュニケーション不足を感じている 

 それを不満に思っている

・部下から意見を述べられると生意気だ、不愉快だと感じてしまう

1箇所でも思い当たる項目があったらパワハラになりやすい状態といえます。
気をつけましょう。

日本でパワハラ問題が浮上している背景には、日本の独特な企業風土があると専門家は考えています。
日本では職務と職務外との線引きが曖昧になりがちで、「成績を上げるための指導がなぜ悪い?」となってしまうのです。

パワハラの加害者になる人は、「これまで自分のやり方で成功してきたし、会社にも大きな貢献をしている」という自負があり、そういう背景があるために自分でも気付かないうちにパワハラ行為を行ってしまい、社内で「あいつはパワハラの常習者」という烙印を押されてしまうのです。
パワハラの加害者には自覚がない場合がほとんどです。

どんな言動がパワハラの対象になるのか、そもそも上司の役割とは何なのか、教育や指導を徹底することが欠かせないと思います。

パワハラ上司の ”トリセツ” (取扱説明書)

パワハラの加害者にはいくつかのタイプがあります。

①自分のストレスを部下にぶつけてしまう「欲求不満型」 

②部下が自分より有能であることを認めたくない「嫉妬型」

③成果を出せず怒ることで存在感を示そうとする「虚勢型」

④一人を怒鳴ることで周りを従わせようとする「見せしめ型」などです。

“激情”に振り回されて・・・

ですが、中には生粋の “パワハラ上司” とも呼ぶべき人がいて、何度注意されても自分の行動パターンが改善できず、部署が異動になっても次々に事件を起こし、多くの部下を精神的に追い詰めたりする、とんでもないパワハラの常習犯「モンスターパワハラ上司」が間違いなく存在しています。
このようなタイプのパワハラ上司は「激情型」と呼ばれています。 「激情型」の人は感情の起伏が激しく、自分で自分をコントロールができないタイプです。

それでは部下の側は「激情型」の上司に対してどのように対応すればよいのでしょうか。そんなに難しいことではありません。

どんなに理不尽なタイプであっても普通にコミュニケーションを取ってさえいれば、そのうちに怒りが爆発するポイント、いわゆる怒りのツボが認識できるようになります。
そうしたら、そこには絶対触れないように注意するようにしましょう。

もし何らかの理由で怒らせてしまったら、まずは上司の言い分を全て吐き出させるようにします。 この段階で部下が反論をしてしまうと逆効果で、さらに激しく長く怒られ続けることになりかねませんし、この後も長期間にわたって恨みを買う恐れも出てきます。

このように上司が感情的になっているときは、相手の主張の要点など必要な言葉だけを聞いて、不要な言葉は聞き流すようにしましょう。

怒りをそのまま真面目に受け止めると、精神的に参ってしまいます。

「激情型」上司に怒られたら、自分が悪いから怒られるのではなく、「この人は勝手に怒り出す人で自分の方が大人である」と思い込むようにするのです。

でも、最終的にはこのような「激情型」の人を管理職にしておくことは、会社にとっても上司本人にとっても不幸なことですので、今回のパワハラ防止法が成立したこの機会に、異動や降格など最も適切な人事判断を下すべきと思います。 

パワハラをしてしまう人はどんな人?
  • 自分は素晴らしい、偉い、偉大だという幻想 (思い込み・勘違い) を作り上げてしまう人
  • 自分の権限を、あたかも自分の才能であるかのように錯覚してしまう人
    このような人は権限を使うことで誰かが振り回されていることがあり、それを確認することでますます偉くなった気持ちになり歯止めが効かなくなるのです。

パワハラを起こさないための留意点

①本人にパワハラをしているという自覚がない場合でも、その言動がパワハラになっている場合があるので注意すること

②業務と関係のない言動、指導の範囲を超えた感情に任せた言動はパワハラになり得るということ

③パワハラは相手方から明確な拒否や抗議があるとは限らないので、決してパワハラ行為ではないと自分で勝手に判断しない方が良いということ

パワハラをされた時にやっておくべきこと・考えること
  • パワハラをされた時はとりあえず相手から逃げること
  • できるだけ相手と接触する時間を減らすこと
  • もし接触するとしても短時間で終わるように逃げ道を作っておくこと
    例えば、「重要な仕事の予定が入っていますので失礼します」と言う。
    (嘘も方便と言います。方便でも良いのでは?)
  • 仲間と連携すること
    ハラスメントをする人は他の人にもやっている可能性がありますから、場合によっては声を出して訴えなければならないこともあります。
    そんな時は仲間がいた方が行動しやすいので同じような痛みを感じている仲間を作っておくことが大切です。
  • 難しいことですが、パワハラだと思わないように考え方を変えてみる
    「(上司は)かわいそうな人なんだ」と思えばいい。

パワハラをしないためには何が必要なのか?

 ・自分の行為が相手に苦痛を与えていないか、常に気をつけること

 ・常に自分自分を省みる習慣を持つこと

 ・自分がされたら嫌なことは極力しないようにすること

  • 正論を言わなければいけない時は、言われた側が傷つかないように、逃げ道 として何か一言を付け加えておくようにすること

パワハラに関する紛争の平和的解決法

法律の中に「国の講ずべき施策として、職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決を促進するために必要な施策を充実すること」と明記されています。 

難しい表現ですが、「ハラスメント防止対策は必ず行わなくてはならず、それにもかかわらず、もしもパワハラ問題が発生してしまった場合には、会社がパワハラ被害者から民事訴訟を提起される恐れもあり、紛争が長期化する可能性もありますので、必ず適切な方法で問題解決を試みる必要があります」ということです。

そこで個別労働紛争を平和的に解決しなければならないのですが、その方法がいくつかありますので、ひとつずつ説明していきます。

①都道府県労働局に設置されている紛争調整委員会による個別労働紛争解決制度の調停あっせん手続きを活用する

調停あっせん手続きは、各都道府県労働局に設置されている紛争調整委員会の委員 (弁護士、社会保険労務士、大学教授などの労働問題の専門家) が事業主と労働者の双方の主張の要点を確かめ、紛争当事者の話し合いを促進することにより紛争の解決を図る制度です。 

双方から求められた場合に、具体的なあっせん案を提示します。 

当事者であっせん案に合意した場合は、民法上の和解契約の効力を持つことになります。 

制度の利用は無料で、全国の「総合労働相談コーナー」から申請が可能です。

労働審判手続を活用する

労働審判手続は、労働審判官 (裁判官) 1人と労働関係に関する専門的な知識と経験を有する労働審判員2人で組織された労働審判委員会が、個別労働紛争を、原則として3回以内の期日で審理し、適宜調停を試み、調停による解決に至らない場合には、事案の実情に即した柔軟な解決を図るための労働審判を行うという紛争解決手続です。

労働審判に対して当事者から異議の申立てがあれば、労働審判はその効力を失い、労働審判事件は訴訟事件に移行します。

③裁判外紛争解決手続き [ ADR ] の活用

ADR とは裁判外紛争解決手続 (Alternative Dispute Resolution) のことで、訴訟によらない紛争解決方法をいいます。 

ADR はトラブルの当事者の会社と労働者の間に、学識経験者である第三者が入り、双方の主張の要点を確かめ、場合によっては具体的なあっせん案を提示するなど、紛争当事者間の調整を行い、話し合いを促進することにより、紛争の円満な解決を図ります。

 [ADR の特徴]

  • 非公開で行われるので、企業イメージやプライバシーの面で安心である。
  • 裁判のように「勝った」「負けた」というような、将来に遺恨を残さない方法で円満解決を目指すことができる。
  • 1~3回程度の交渉で問題が短期間で解決する。
    (1回で終了することが多いようです)

あっせん案の合意 (和解) に至らなかった場合は打ち切りとなり、その後は労働審判や裁判に訴えるなど別の手段での解決となります。

合意に至らなかったとしても、今後の裁判での勝算や和解金の額の予想など、貴重な情報を得ることもできますので、時間や費用が全く無駄になるわけではありません。ですからがっかりすることはありません。

最後に

パワーハラスメントが社会問題になるのは時代の流れです。

パワハラが職場で広がる背景には人材の多様化もあります。

現在ではひとつの職場に様々な人たちが働いています。

正社員と非正規社員では会社への帰属意識も違うでしょうし、同じ正社員でも仕事を最優先にできる社員もいれば、子育てや介護などの事情を抱えて家庭を重視せざるを得ない社員もいます。

価値観の相違が生じている場面で、上下関係を盾に力で押さえ込もうとしたときにパワハラは起きやすくなります。

パワハラは絶対に許されない行為ですが、どんなに気をつけていても上司と部下の絶対的な関係の下では、部下を傷つけたり不快にさせたりする言動は起きてしまいす。

上司はその場では気が付かなかったとしても、「言い過ぎた」「やり過ぎた」と思ったら素直に謝る姿勢も管理職には大切なことなのではないでしょうか。

パワハラは仕事の指示内容が正しかったのか間違っていたのかという問題ではありません。

パワハラを受けた部下は仕事へのモチベーションが下がり、管理職との信頼関係も壊れてしまいます。それがひいては職場全体の生産性の低下につながってしまいます。

結論として、パワハラ問題は日頃のコミュニケーション欠如に起因するもので、お互いの信頼関係が構築されていればパワハラの発生は防げるともいえます。

法制化はその後ろ盾に過ぎず、お互いの感情を読み取り、適切にコントロールすることがパワハラの根本的解決策として重要なのではないかと考えるのです。

今回、せっかくパワハラ防止法が制定されたのですから、これを契機として、今までの職場における上司と部下の人間関係を見直してみたらいかがでしょうか?

終わり 長文にも関わらず最後までお読みいただきましてありがとうございました。

パワハラ防止法がついに成立しました しかし罰則規定なしの骨抜き法でした! 終わり

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