“老後2000万円”より深刻 金融庁報告書の本当のテーマは「認知症問題」だ 

“老後2000万円問題”より深刻 金融庁報告書の本当のテーマは 

「認知症問題」だ 

はじめに

社会問題となった「老後2000万円」問題。
金融庁・金融審議会の市場ワーキング・グループが報告書で「老後資金は30年で約2000万円不足する」との試算を示したことが、国民に大きな不安や誤解を与えると非難され、事実上の撤回に追い込まれてしまいました。

非常に残念なことです。

一方で、この報告書のタイトルにあるように本来、市場ワーキング・グループがこの報告書で言いたかったことは、「高齢社会における資産形成と管理」についてなのです。

高齢社会における金融サービスのあり方を考えること

実はそれこそがこの報告書の本当のテーマであり、報告書には我々一人一人が自分の老後のお金を考える時の示唆に富んだ考え方が多く盛り込まれているのです。

報告書はまず、今後の社会情勢を考えると個人が自分で必要な資産形成をすることが大切であること、高齢化が進むことによって金融取引に対する認知・判断能力が低下する人が増えることを前提としています。 

そのうえで誰もが長い老後生活を「自分ごと」として考え、金融業者もそれに寄り添う形で顧客本位の業務運営をより一層意識していくべきであると提言しています。

報告書には現状認識として、『 わが国の高齢者は元気であり、実際に定年延長の影響もあり、多くの高齢者がいまだ現役で働き、社会の中で活躍し続けている。

しかしながら、長寿化と認知症の人の増加を踏まえると、今後は認知症の人はもはや決して例外的な存在ではなく、認知・判断能力の低下は誰にでも起こりうると認識すべきであるといえる 』と書かれています。

これはつまり、もし認知症になった時に自分の金融資産をどうするのか、どう守るのか、ということを訴えているのです。

つまりこの「金融庁報告書」が本来言いたかったこと、本当に必要な議論と考えていること、本当のテーマ、それは「認知症問題」なのです。

  

そして、報告書の結論に当たるページには次のように書かれています。

『 75歳を超えたあたりから認知症有病率は大きく上昇するとされており、今から準備を始めることが重要と考えられる 』

さらに続けて次のようなことが書かれています。

『 日本人は長生きするようになりました。さらに現在の高齢者は昔に比べて格段に元気であり、社会で活躍し続けています。

特に2025年には、いわゆる団塊の世代75歳を迎える年とされています。
さらにその先の2030年頃にはもう一つの人口の塊である団塊の世代ジュニアの人たちが60代となり、資産の取り崩し期を迎えることが予想されています。 

認知能力・判断能力の低下は誰にでも起こりうるという認識のもと、これに備え、対応することは、本人にとってこれまでと同じ形で金融サービスを受けるという意味で必要であり、家族など周囲の者を混乱させないという意味でも非常に重要です。

このことを見据えて、今何ができるか、何をすべきか。

今後のライフプラン・マネープランを遠い未来の話ではなく、今現在において必要なこと、自分のこととして捉え、考えられるかが重要であり、これは早ければ早いほど望ましいといえます』 

※金融庁報告書はこちらからご覧いただくことができます。

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目次

2000万円問題の陰に隠れてしまった”認知症問題” 

認知症リスク 報告書には何と書かれているか 

国内で認知症を患っている人たちは増加傾向にあり、軽度な人を含めるとすでに65歳以上の4人に1人が認知・判断能力に何らかの問題を抱えているとされています。

認知症になってしまうと、通常ですと国内の多くの金融機関では詐欺や家族間トラブルが起きないよう、認知症と診断された人の資産を凍結してしまいます。

認知症を患う人が増えてくると、資産の引き出しが自由にできないばかりか、資産運用に関して本人の意思が確認できない状況に陥る事例が急激に増えてくるとされています。 報告書でもそのように指摘されています。 

この報告書が、認知・判断能力が低下するリスクについて、いかに重要な問題として考えているかを証明するのが、報告書の最後の章の部分に「認知症問題」について詳しく書き記していることです。

報告書には次のように書かれています。

『認知・判断能力が低下・喪失し、本人との意思疎通が難しくなってきた場合には、本人を代理する家族や後見人など、周囲の者とのコミュニケーションが重要であると思われ、この時期においては必要に応じて早い時期から周囲の者との信頼関係を先んじて構築しておくことが望ましいのです。

認知・判断能力が低下してきたとすれば、顧客自身が自ら資産管理を行うには困難が伴います。
そんな時は、例えば信託サービスなどを利用して、資産管理が難しくなった本人に代わって、本人から信頼された者が受託者として本人の意思に則って資産管理を行うサービスを利用するべきです』

そして報告書の末尾では、『その際には、認知判断能力が低下した後であっても、あらかじめ明らかにされた顧客本人の意思を最大限に尊重しながら、 適切な金融取引の選択を行えることが望ましく、銀行などの金融サービス提供者も今後より一層、対応を進めていくべきである』という一文で締めくくられています。

この金融庁の報告書では、分かりやすく言うと、金融機関に対して、「認知症高齢者の財産を食い物にするな」と指摘し、注意喚起をしているわけです。

 

「家族信託」という制度

さて報告書の中にある「本人に代わって資産管理を行うサービス」ですが、そのひとつとして「家族信託」という仕組みを利用することができます。

「家族信託」とは 現金や不動産などの財産を持つ親が、元気で判断能力があるうちに、子どもなどの親族との間で信託契約を結び、財産の管理を託す仕組みです。

そのため最初に銀行に「信託口座」というものを作ります。 

次に、両親の口座から信託口座にお金を移動するための「家族信託契約書」を作ります。

信託口座の中のお金は、親が認知症などで判断能力を失った後、親の介護費用や入院費用などに充てることができます。

実際介護などにかかる費用は予想以上で、たとえ自分の退職金などを切り崩したとしても、とても自分たちでは賄えない額と言われています。

やはり銀行口座が凍結されて使えず、本人のために使えるはずのお金が眠ってしまうということは非常にまずいことだと思います。

ですから信託口座を作り、本人のために蓄えたお金を本人のために使ってあげることができるのであれば、それは本当の親孝行につながることだと思います。

認知症患者の保有する金融資産額は年々増加し、2017年は143兆円でしたが、 2030年には215兆円にまで膨らむとされています。

専門家はこれが日本経済に大きな影響を及ぼすと指摘します。

ある専門家は「日本全体の金融資産のおよそ1割を認知症の方が持っているという状態になってしまいます。 日本の景気全体で見ても、高齢者の方々のお金が経済に回らないということにつながりますので、非常にマイナスになります」と、話しています。

この問題に金融機関も注目し始めました。

多くの信託銀行では預金残高の6割以上を65歳以上の高齢者が保有しています。

信託銀行というのは財産管理がメインの業務なので、財産管理型の信託をこれからも看板商品として考えているはずです。

そこで信託銀行各行は相次いで 認知症に備える金融サービスを登場させています。

例えば三井住友信託銀行では、人生100年応援信託と題した「100年パスポート」という信託商品を2019年6月から新たに発売しています。

これには認知症などで契約者の判断力が衰える前に「代理人」を設定すれば、家庭裁判所を通さずに信託財産を引き出せることができるサービスが装備されています。
この「手続代理人」は医療費、介護費、住居費などの支払いを代理で行うことができます。

また、三井住友信託銀行では、将来に備え、家族や専門家を任意後見の受任者
(任意後見人)とする任意後見制度の利用を推奨しています。

金融庁報告書 その真の目的

話題を呼んだ金融庁・金融審議会の市場ワーキング・グループによる報告書。 

その序文にはこの報告書がひとつの契機となり、個々人が自分のこととして本テーマを精力的に議論し、国民の認識がさらに深まっていくことで、令和の時代における具体的な行動につながっていくことを期待している』と記載されています。

金融庁の報告書にはこのような認知症の問題など重要な指摘もありました。
しかし政府はこの報告書を受け取らず、課題は棚上げされたままです。

認知症の高齢者をめぐる資産トラブルにはどんなものがあるのか?

認知症になると、資産を凍結されてしまう以外に、金融機関によって次のような資産トラブルがあります。

証券・銀行 

明らかに手数料目当ての投資信託売買が行われている。

→繰り返し売り買いをさせて、その度に手数料を取っていく悪質な手口。 

→認知症の親の資産が過剰に投資されていたり、リスクの高い債券に振り向けられていたりといった被害が出ている。      

生命保険 

リスクが大きすぎる「外貨建て保険」に強引に加入させている。

保険金の実質的 ”不払い” が起きている。 

基本、保険金というのは契約者でないと保険請求できないし、解約もできない。

→結果的に本人が認知症になって当事者能力を失ってしまうと、そのままになって、結局必要な時に保険金が下りない上に、保険料だけずっと払わされ続けているというケースが非常に多い。 

これから認知症高齢者が増えるにつれて、こうした問題はさらに広がる恐れがあります。 

金融担当大臣が報告書を受け取らないのではなくて、むしろあの時受け取っておいて、認知症問題を解決するための対策、例えば作業部会を開くなどの行動を本来は取るべきだったといえるのではないでしょうか。

資産の形成・管理方法の人生のライフステージによる分類

現役期 

長寿化に対応して長期・積立・分散投資など少額からでも資産形成の行動を起こす時期であり、次のようなことが有効と考えられます。

・早い時期から資産形成を行う重要性と有効性を認識すること

・少額からであっても安定的に資産形成を行うこと

・長期的に取引できる金融サービス業者を選ぶこと 

・リスクを避けるため長期間分散して投資し続けること

・自分にふさわしいライフプラン・マネープランを検討すること 

リタイア期前後 

定年退職 (リタイア) 以降の人生も長期化していることに対応して、金融資産の目減りの抑制や計画的な資産の取り崩しに向けて行動する時期であり、次のようなことが有効であると考えられます。

・働く期間をできるだけ延ばし、収入を確保し続けること

・退職金がある場合、その使い方とマネーライフプランを再検討すること 

・収支の改善策を実行すること 

・長い人生を見据えた中長期的な資産運用の継続すること

・その後の資産の計画的な取り崩しを実行すること

高齢期 

資産の計画的な取り崩しを実行するとともに、認知・判断能力の低下や喪失に備えて行動する時期であり、次のようなことが有効であると考えられます。

・心身の衰えを見据えてマネープランを見直すこと 

 (医療費、老人ホーム入居費など)

・認知判断能力の低下と喪失に備えること

・取引関係の簡素化など心身の衰えに応じた対応をしやすくしておくこと

・金融資産の管理方針を決めておくこと

・可能であれば金銭面の必要情報を信頼できる者と共有すること

・予め共有された情報や方針に基づく他者のサポートを受けること

・これまでと同様の金融サービスを利用しやすくしておくこと 

その他 報告書に書かれてあること (見出しのみ)

金融リテラシーの向上 (リテラシー  = “知識・応用力” )

・金融サービスアドバイザーの充実

金融機関へ向けての提言

・高齢社会における金融サービスのあり方

・高齢顧客保護のあり方

・顧客本位の業務運営の徹底 

・持続可能な金融サービス など

最後に

今回の金融庁の”老後資金2000万円”報告書の問題では、参院選を控えた与野党の政争の具にされた感じは否めません。 

それでも長寿化と公的年金の役割縮小を展望し、老後貯蓄の必要性を説いている報告書の骨格自体は妥当なものです。 読んでおいて損はありません。

そして認知症社会の到来が近づいており、社会構造の変化から資産運用の重要性は高まるばかりです。

残念なことに今回の「金融庁報告書問題」は形式上は撤回により議論が止まってしまいましたが、「認知症問題」については将来必ず起こり得るもとして正面から向き合う姿勢が必要となり、それにきちんと立ち向かう対応が求められるようになるでしょう。 

 

“老後2000万円問題”より深刻 金融庁報告書の本当のテーマは 

「認知症問題」だ   終わり

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