介護職のハラスメント被害と 介護職による高齢者虐待
やりきれない気持ちになる「負の連鎖」
[2019年7月 加筆修正 最新版]
はじめに
介護現場で働く人たちが利用者 (介護される人) や、その家族から受ける暴言・暴力・性的嫌がらせといったハラスメント被害が深刻化しています。
また逆に介護施設に入所している高齢者に対する、介護職員による虐待もまた
深刻な問題になっています。
この相反するふたつの問題が時を同じくして今、介護現場で大きな社会問題に
なっているのです。
介護の現場で以前から頻繁に起こっていた、利用者による介護従事者へのハラス
メントと、それとは逆に介護施設の中で起こる介護職員による高齢入居者に対する虐待問題。
このようなやった、やられたという「負の連鎖」、いい加減に何とかならないものでしょうか?
先に仲間の介護従事者が利用者にハラスメントされたから、今度は仕返しの意味で高齢者を虐待しているのですか? と、思わず問いかけたくなります。
まさか、そんな非常識で悪質な介護職員はいないと信じたいですが、とにかくどちらも早急に対策を立てて解決しなければならない問題だと考えます。
今、このブログをお読みになっている方たちの中にも、今現在身内のどなたかを
介護なさっているという方もいらっしゃるかも知れません。
訪問介護を受けているにせよ、介護施設に入居しているにせよ、もしかしたら虐待の被害者になってしまうかも知れません。
逆にちょっとしたことで介護職の人に暴力を振るってしまうかもしれません。
全くありえないことではないと思います。
決して他人事だと言って済ませられるような単純な問題ではないと思います。
もしかしたら明日の我が身に降りかかってくる深刻な問題かもしれません。
ここで真剣に考えてみるのはいかがでしょうか?
目次
介護職が受ける深刻なハラスメント被害の実態と対策
介護セクハラが酷い! 現場の悲鳴が聞こえてくる!!
介護現場で働く人たちが利用者やその家族から受けるパワハラ・セクハラなどの
ハラスメント被害の実例には次のようなものがあります。
パワハラ被害
・攻撃的態度で大声を出された 立て続けに暴言を浴びせかけられた
・◯◯さんはやってくれたなど、他人を引き合いに出して強要された
・サービス契約上受けていないサービスを要求された 断ると罵倒された
・介護保険の制度上認められていないサービスを強要された
・強く小突かれたり、杖で叩かれたりするなどの身体的暴力を振るわれた
・『バカ』『クズ』など人格を否定するようなことを言われた
・土下座することを強要された など
セクハラ被害
・不必要に体に触れるなどの個人的な接触を図ってくる
・性的な冗談を繰り返したり、性的な関係を要求してくる
・サービス提供中に胸や腰などをじっと見つめてくる
・食事やデートに執拗に誘ってくる など
介護職員の労働組合である「日本介護クラフトユニオン」の調査では、組合員の
およそ75%が何らかのハラスメントを受けていました。
そのうちパワハラ行為を受けた経験のある人は94%、またセクハラ行為の被害に
遭っていた人も40%に上りました。 ( 重複回答)
言葉の暴力については利用者側も介護従事者側にも男女の差はなく、男性ばかりではなく女性の利用者も、気に入らない介護従事者であれば男女問わず暴言を吐くということが何度もあったようです。
例えば『こんな下手なヘルパー初めてだ ! もう来なくていい』と、言われたとしても、来なくていいと言われたからといって、また明日も行かないわけにはいかないのです。
介護される人によるハラスメント その原因は何なのでしょうか?
それでは、介護サービス利用者がパワハラやセクハラをする原因は一体何なので
しょうか? そして介護ハラスメント被害の声があまり表に出てこない理由とは
いったい何なのでしょうか?
まず、感情が出やすい環境にあるということが第一に考えられます。
介護現場というのは、密室性が高く、利用者やその家族と2人きりになる機会も
多いため、入浴や着替えの介助など、密接な接触が日常的となります。
そのためにそもそもセクハラやパワハラをしているという自覚がないのです。
しかも介護されるのが当たり前という甘えの構造があります。
病院などの非日常空間ではない、日常生活を送る自宅で介護してもらうからこそ
余計にそう感じるのでしょう。
極めてハラスメントが起きやすい環境だといえるでしょう。
また、悪いことをしているという意識がない方もいます。
「ハラスメント」などという言葉もない時代を生きてきた人たちですから、高圧的な物言いをしたり、少々身体を触るぐらい大した問題ではないと思っていたりするのです。 こういう方たちにハラスメントをやめるように言うと、逆ギレされることもあるので、どうしても注意することを躊躇してしまうわけです。
介護現場でのハラスメントは、ずっと以前から問題になっていた、古くて新しい
問題なのですが、介護人が相手の生活空間に立ち入ってしまうことで、つい度を
越した要求をしてしまうのではないかということが考えられます。
ハラスメントが起こりやすい理由って何でしょうか?
・認知症が原因であれば、「行動・心理症状」(BPSD) として感情の抑制が効かな
く なり、我慢ができなくなってくる
・利用者の人生経験や経済状況、性格に伴うもの
・介護従事者の尊厳が低く見られている
・利用者のストレスのはけ口になりやすい
・利用者家族の介護保険サービスへの無理解 など
介護業界というのは昔から、利用者からのハラスメント的行為を受けても『我慢して当然』『受け流すのがプロ』といった風潮が根強く、上司からも『問題にしないように』と言われ、今までは被害を受けた介護職の方たちがずっと我慢していましたが、最近になってやっと問題が明るみになり、認知され始めてきました。
しかしまだ有効な防止策は何も見出されていない状況です。
利用者からのパワハラやセクハラは、介護職に就いている人たちの安全と安心を
脅かし、心身の不調や休職、あるいは離職の大きな要因と指摘されています。
これは介護現場の人手不足が進行する中で看過できない大きな問題です。
介護従事者のほうもハラスメントを誘発しない介護方法を考え、介護技術を磨くことが必要で、なおかつ介護事業者の側も、介護現場の意識改革が求められていると思います。
行政が考えるべき対策とは?
行政は介護需要の増大を見据えて、施設介護から在宅での介護への移行を進めていく必要があります。
しかしその受け皿となる訪問介護は利用者宅での単独業務が一般的で、訪問介護職員の大半 (約9割近く) が女性です。
こんな現場環境は早急に改善されなければ、在宅ケアの拡充はおぼつきません。
2人1組のような複数で訪問するという対処方法もありますが、何より人員不足で
あることや、費用の問題で利用者から拒否されることがあり困難な場合も多いの
です。
ですが都道府県によっては、リスクのある家庭への複数人での訪問を後押しする、費用補助を行っている県もあります。 兵庫県などがそうです。
厚生労働省ではこのようなハラスメントの実態を踏まえ、いよいよ今年度、初の
訪問介護サービスでのハラスメント被害の実態調査に乗り出すことになりました。
その結果を踏まえて、事業者向けのマニュアル作りに取り掛かる方針ですが、果たして実効性のある対策に繋がることになるのでしょうか?
注意深く見守りたいと思います。
[加筆修正部分]
厚生労働省では今年(2019年) 介護職員に対する利用者やその家族からの暴言や暴力などのハラスメント行為を防ぐため、「介護事業者向けのハラスメント対応マニュアル」をまとめ、公表しました。
そのマニュアルの内容は、相談窓口の設置や研修の実施など介護事業者の取り組みや、ハラスメント行為が許されないことを利用者らにも丁寧に周知することの重要性を強調するものになっています。
マニュアルではハラスメント行為が起きた時の初動対応や、再発防止策などを具体的に決めておくことを推奨しています。
事業者向けマニュアルで示された対応の例
- どんな行為がハラスメントに当たるのかを利用者らに適切に説明する。
禁止事項などを読み上げて説明し、わかりやすい表現を用いて繰り返すなど、伝え方を工夫すること。 - ハラスメントがあった場合の対応 (契約解除など) を契約書面に明記しておくこと。
- ハラスメントを未然に防止するために担当者を固定化せず、複数人で介護するなどシフトを工夫すること。また職員の個人情報を利用者へむやみに伝えないこと。
- 職員が被害を相談しやすい窓口を設置し周知すること
- ハラスメントの事例を共有し、そのときの適切な対応などを考える研修を実施すること。
以上のように事業者が適切に予防策や対応を実施できているかを確認するのに役立つマニュアルとなっています。
介護職員へのハラスメント被害を放置すれば、離職者の増加などで介護現場の人手不足がさらに深刻になりかねません。
厚生労働省はこの対応マニュアルを通じて全国の介護事業者が被害防止に向けた体制整備に役立ててもらいたいという考えのようです。
介護の現場からは、頻繁にパワハラ・セクハラを繰り返すような質の悪い利用者との訪問介護契約を解除できる基準づくりを求める声が多いようです。
何といっても、ハラスメントの法制化、そして罰則の強化が何より求められることです。 早く法律と基準を作り、介護の現場を守っていただきたいものです。
法令を遵守することによって介護保険とその利用者の尊厳が保たれ、本当の意味の介護コンプライアンスの確立となるでしょう。
高齢者への虐待 過去最多の被害が表すものは何か?
高齢者への虐待が深刻化しています。
特に専門的ケアを提供すべき介護施設での増加が目立つようです。
厚生労働省が公表した2016年度の高齢者虐待の調査によると、介護職員による虐待は過去最高の452件もあり、5年間で3倍に増えています。
一つの施設で複数回発生した事案もあり、被害者は870人にものぼりました。
その虐待の内訳ですが、暴行などの身体的虐待が6割を超え、最も多くなりました。その次に暴言などの心理的虐待や介護放棄などが続いています。
施設別に分析すると、特別養護老人ホームと有料老人ホームで半数以上を占めました。
虐待のあった事業者の4分の1は過去に何らかの行政処分を受けていたようです。
高齢者虐待の最も有名なものとしては、川崎市の老人ホームで2014年に入居者3人が相次いで転落死した事件がありました。
この事件では殺人罪に問われた元施設職員に死刑が言い渡されています。
虐待は介護が必要な高齢者の安全・安心を脅かし、尊厳を深く傷つけるものです。
社会的意識の高まりによって虐待問題が顕在化してきましたが、看過できない事態であることに変わりはないと言えるでしょう。
虐待の頻発は介護施設への不信感を増幅させ、介護保険制度全般への信頼をも揺るがしかねない大問題になっています。
それでは虐待の背景として何があるのでしょうか?
まず、第一に指摘されるのが介護現場の深刻な人材難です。
恒常的な過密勤務で職員の負担が重くなっており、心の余裕がなくなって感情が
荒くなっていることに原因の一つがあるのかも知れません。
その他の要因も箇条書きでまとめてみました。
・認知症などでコミュニケーションの難しい利用者が増えた反面、
知識や経験の乏しい職員に頼らざるを得ない実態がある
・介護職員の教育・知識・介護技術などが不足している
・介護職員がストレスの発散や感情コントロールができない
・倫理観や理念の欠如
・介護職員の性格や資質の未熟さによる
・人手不足や人員配置に問題がある
・介護事業所の企業風土に問題がある
高齢者虐待 その対策
高齢者虐待対策としては、処遇改善などの人材確保政策の拡充に加え、介護技術・知識やストレス対策に関する職員研修の充実が欠かせないことになります。
職員の業務軽減も必要になります。 施設の清掃や配膳など補助産業の担い手を増やし、IT 情報技術を活用し、仕事を効率化することになるでしょう。
政府や自治体もしっかりと後押しをする必要があると思います。
また家族による虐待も少しずつ増えてきています。
その原因はやはり介護疲れによるものが多いようです。
息抜きの場所作りなどで介護職員の疲労と孤立化を防ぐことが大切な時期に来ているようです。
介護とは感情の仕事です。
尊厳をもって利用者に対応することを 第一に考えなければならないと思います。
そうしなければハラスメントも虐待も、決してなくなることはないでしょう。
介護職のハラスメント被害と介護職による高齢者虐待
やりきれない気持ちになる「負の連鎖」
終わり