“おひとりさまの最期”を支えてくれる3つの資産管理方法をご紹介します
はじめに
『身寄りが一人もいない』『親戚はいるけど頼れない、頼りたくない』など、高齢の単身者、いわゆる”おひとりさま”にとって気になるのは、自分が亡くなった時のことではないでしょうか?
『誰が自分の葬儀をしてくれるのだろう? 誰かに残された家財道具を処分してもらわなければ』などと心配し始めたらきりがありません。
しかし本当は死亡後のことだけではなく、生前からの準備についても考えておかなければならないのです。 死亡後の心配は生前からつながっているからです。
高齢単身者いわゆる”おひとりさま”が「ひとりの最期」を住み慣れた自宅で迎えるためには、介護や医療だけではなく金銭管理や自分の死後の事務手続きなどの生活サポートも必要になってきます。
自分の意思をはっきり持ち、判断能力がしっかりしていても、足腰が弱って体力がなくなり、銀行や役所などへ出かけて行くことがつらいと考えている高齢者の方も多くいらっしゃるかと思います。
このような一人暮らしの高齢者などの生活の質を高めてくれる活用方法がいくつかございますので、今回はそれらの仕組みについて詳しくご説明いたします。
高齢者ご本人だけではなく、高齢になられた一人暮らしの親御様がいらっしゃる方、そして常日頃から親御様のお身体や財産のことが心配だと気にかけていらっしゃるご家族の方など、親族全ての方々のために、この記事を書きました。
”おひとりさま”の最期を支えるために「任意代理契約」や「任意後見制度」そして「死後事務委任契約」という3つの資産管理方法があるのです。
あなたはご存知でしたか?
記事の中でできるだけ詳しく書いておきましたので、どうかご参考になさってみてください。
目次
「任意代理」契約の仕組み 「任意代理人」になるには?
ご高齢者の方が、判断能力は低下していないものの、例えば長期に入院しなければならなくなり、その間本人が預貯金の出し入れなどの管理ができなくなってしまった場合などは一体どうしたらいいのでしょうか?
そんな時は家族または支援してくれる福祉法人や法律専門職との間で、自分に代わって銀行口座の預貯金の管理や、役所などへの必要な手続きを行ってもらうための契約を結んでおくことができるのです。
これを「任意代理契約」といいます。
あるいは「財産管理等委任契約」と呼ぶこともありますが、ここでは一般的な
「任意代理契約」という呼び方を使っていきたいと思います。
高齢の親の足腰が弱り、一人で外出することが困難になったり、認知症ではないものの判断能力にわずかな衰えが見られる場合には、親子の間で「任意代理契約」を結んで、子が親の「任意代理人」になることができます。
また身近に肉親(家族)がいない高齢の一人暮らしの方、いわゆる”おひとりさま”の
場合でも、地域の福祉法人や弁護士・司法書士などの法律専門職が高齢者の「任意代理人」になる契約を結ぶことができるのです。
「任意代理」というのは民法に規定されている権利で、基本的には子が一定の範囲で親の金融取引を代わって行うことができるというものです。
親子がいっしょに金融機関で手続きをすれば、その後は代理人である子の判断で親の預金口座からまとまったお金を引き出したり、親名義の株式を売却できたりします。 金融財産の管理全般を親に代わって子ができることになるのです。
なお、設定できる任意代理の範囲は金融機関によって少しずつ異なるので、確認した方がよろしいでしょう。
金融機関における「任意代理」手続きの流れ
1. 親の取引口座のある銀行、証券会社等の店舗に出向き、所定の「代理人届出書類」などをもらってきます。
2. 口座名義人である本人(親)と代理人(子)の住所・氏名などを届出書に記入押印 し、『代理の内容』を記載します。
原則として本人(親)が自分で書いて記入しなければなりませんが、親が書けない場合は代筆も可能ということもあります。 [自署の原則]
※『代理の内容』とは本人の取引のうち、代理人が何をどこまでできるかの範囲を明確にするもので、一般的には金融機関が定型化したものを届出書類に記載していることが多いようです。
ですから内容は金融機関によって多少異なります。銀行によっては限度なしに預金口座の一切の取引ができるというところもあれば、1回あたりの出金限度額が決まっているところもあります。
3. 銀行、証券会社の担当者が本人・代理人と面談し、代理の意思と『代理内容』を確認します。 本人・代理人が揃って金融機関の店舗窓口に行く方法のほか、親の自宅や介護施設などに金融機関側が出向いてくるということもあります。
確認が終わると代理人による取引が可能となります。
ただし銀行では口座の解約は代理人に委任できないというところが多いようです。証券会社も同様です。解約は本人が直接金融機関に伝える必要があるからです。
いずれにしても「任意代理」の契約内容は当事者間で決め、その契約に基づいて
受任者は業務を遂行することになります。
家族ではない福祉法人や法律専門職と「任意代理契約」を結ぶ場合には別途報酬が発生しますので、その報酬額については当事者間で決めておく必要があります。
体の自由がきかなくなった時の備えとして任意代理を活用しましょう
「任意代理契約」は入院中に限らず、足腰の衰えや視力の低下などで一人での外出が困難になった時に利用することができます。
また判断能力はあっても、複雑な手続きや重要書類の管理を自分だけで行うことに自信が持てなくなってきている時にも利用することができます。
例えば、土地建物の権利証や銀行口座の通帳・印鑑、クレジットカードやマイナンバーカードの通知書などのような重要な書類を無くさないように保管・管理してくれるので安心です。
そのほか年金の受け取り、光熱費や家賃などの生活費の支払い、医療費の支払いなどを代理でしてもらうことができます。
また病気で手術をしなくてはならなくなった場合の立会いや、延命治療など医療に関する意思を代理で医師に伝えてもらうことも可能です。
そのほかにも賃貸住宅や老人ホームなどの入居契約や入院する時の身元引き受けの保証をしてくれることもあります。
高齢者には突然倒れて救急車で運ばれるなどという事態があり得ます。
高齢であることはリスクが高いのです。
判断能力の有る無しに関わらず、病気になったり、高齢になったりすれば、ひとりではできないことがたくさんあります。
そんな時に信頼できる方と「任意代理契約」をしておけば、どのような不測の事態にも対応することができるのです。
任意後見を利用して老後の財産を管理する方法
「任意後見制度」は、認知能力が低下する前にあらかじめ任意後見人になる人を決めて、その人と任意後見契約を結び、将来認知症などで判断能力が不十分になった時に支援を受ける制度です。
任意後見契約は、法律によって公証役場で公正証書によって締結することが定められています。
「任意後見制度」は、判断能力がまだしっかりしているときに、後見人として信頼できる人を自分で選び、「将来もし自分が認知症になって判断能力がなくなったとしても、こんなふうなことをして欲しい」という望みを託すことができる制度です。 こうして選んだ後見人のことを任意後見人といいます。
日々の生活や療養看護の環境、また財産管理などについて、任意後見人に代理権を与える契約を結ぶことによって、最後まで 自分の人生を自由に設計し、実行することを可能にする制度なのです。
まさに自分だけのオーダーメイドの老後プランを作り、それが実行されるように細かく契約で決めることが出来て、その後、仮に認知症を発症した後でも自分らしく尊厳のある人生を送るのに役立つ制度、それが任意後見制度なのです。
「任意後見」との二段構えの備えでいきましょう
判断能力が十分にあるうちは「任意代理契約」で支援してもらうのですが、判断能力が低下してから、すなわち認知症などになってからは、「成年後見制度」の種類の一つである「任意後見契約」で財産管理などをサポートしてもらうという二段構えの備えが理想的です。
むしろ「任意代理」と「任意後見」のセットで行なった方が、契約が長期に及ぶため安心して任せることができます。
「任意代理契約」は必ずしも公正証書でなくても構いませんが、後々トラブルになる可能性もありますので、「任意後見契約」を公証役場で結ぶ際に、一緒に公正証書で任意代理契約も結んでおくことを強くお勧めします。
( 「任意後見契約」は必ず公正証書にしなくてはなりません。 )
ご覧のように「任意代理契約」とは信頼できる家族(子ら)または福祉法人や法律専門職に、自分の財産の管理を委託するものです。
ですから契約の相手方に悪意のある場合には、財産を欲しいままに処分されてしまうという懸念もあります。
そのようなことを防ぐために、受任者には財産管理や事務処理に関する報告書と通帳などの写しなどを定期的に提出させるなど、不正がないように常に確認するようにしましょう。
絶対に全てを任せきりにしないことが重要です。
自分ではできない死後のこと そんな時は死後事務委任契約を
任意代理も任意後見も、基本的には本人が死亡した時点で契約は終了します。
任意代理は判断能力を維持したまま本人が亡くなるまで、任意後見は判断能力が
低下してから(認知症などになってから) 本人が亡くなるまでの契約ですので、
どちらも本人が亡くなれば契約自体は終了してしまうわけです。
ですから基本的に亡くなった後の役所関係の手続きやお葬式や遺品整理のことなど、死後の手続きを任意代理人や任意後見人にお願いすることはできないのです。
そんなときにお役に立つのが、次に述べる「死後事務委任契約」です。
死後事務委任契約の内容
死後事務すなわち役所への届け出などの死後の事務手続きや家の片付け、葬式やお墓のことなどについては、一般的には残された子どもたちなど家族や親族が行なってくれるのが普通です。
しかしこの記事でお話しさせていただいているのは、頼れる親族のいない 高齢単身者 ”おひとりさま” の場合などのことですので、「自分が死んだ後に必ずしてほしいこと」についてきちんと決めておきたい場合には、それをお願いする人との間で「死後事務委任契約」というものを生前に結んでおきます。
例えば、
・自分の死をいつ誰に連絡するのか
・お葬式はどこの葬儀社やお寺に依頼するのか
・遺品や家の片付けをどうするのか
・死後に精算しなければならない病院の医療費や老人ホームなどの施設利用料 のの支払いはどうするのか
・借家や賃貸アパートなどであれば明け渡しに関する手続き事務をどうするのか
・ガスや電気、電話などの公共料金の解約と支払いをどうするのか
などといった内容を取り決めるのです。
「死後事務委任契約」は契約者が亡くなった後、委託された側が契約事項を忠実かつ確実に実行する、法的かつ経済的な行為を行うための契約です。
当事者同士の私的な契約ですので公正証書である必要はありませんが、私はトラブル回避のためにも公正証書による契約を結ぶことをお勧めしております。
葬儀や火葬・納骨、自宅の片付け、家財の処分、ペットの処遇などの事務を自分の死後に誰かに託すわけですから、希望通りにしてくれるかどうか、受任者との信頼関係は不可欠なものになるでしょう。
自分の死後は死後事務委任契約がきちんと履行されたかを見届けることができないため、やはり一番信頼できる相手と契約を結ぶことが一番大切なことになります。
昨今では「死後事務委任契約」を請け負う様々な NPO や市民団体も数多く出てきて、選択の幅が広がっていますが、どんな人たちがその団体を運営しているのか事前によく調べておく必要があります。
やはり公共性・信頼性の高い福祉法人や法律専門職に依頼した方が安心できると思われますが、特に法律の知識が必要となるような手続きや事務作業でなければ、人柄をよく知る親しい友人などに頼むのが一番いいかもしれません。
また、法律専門職だと数万円の月額報酬がかかりますので費用を抑えたい方はご注意ください。
生前整理のすすめ
注意していただきたいことがもう1点ございます
死後事務を受任する人が家族などの法定相続人でない場合、手続きや事務処理に必要なお金であっても、故人の遺産から引き出すことができない点です。
なぜなら遺産は基本的に法定相続人にのみ相続権があるからです。
そのため死後の手続きや事務処理をするのにかかる費用については、生前に受任者に預けておかなければなりません。
その内容によっては数十万円から数百万円になることも考えられますので、あらかじめ預託金として受任者に預けておく必要があります。
預託金には実費も含まれますので依頼する内容によって金額は大きく変わります。
お葬式をするかしないか、またはお墓を建てるか建てないかでも随分違ってくると思います。 さらに、住んでいた家を解体して更地にしたりすることなどをお願いすれば、数百万円の預託金が必要となるでしょう。
あまりお金をかけたくなければ生前に自分ができることは全てやっておけば、依頼の内容はかなりスリム化されると思います。
効果的に「生前整理」をしておきましょう。
なお、不動産などの売却は「死後事務委任契約」では委任することはできませんので、遺言書によって行なっていただくことになります。
そのため「死後事務委任契約」を締結する場合には、あわせて『公正証書遺言』を作成して、どちらも同じ人が実行できるようにしておくことが望ましいと思われます。
最後に
任意代理契約も死後事務委任契約も連続しているものであるため、1人もしくは
1法人に依頼するとスムーズに事が進んでいきます。
実際には一つにまとめて、公証役場にて公正証書で契約するほうが良いと思われ
ます。
何よりも長期にわたる付き合いになる可能性が高いため、お互いの相性が大切で
何より最も信頼できる人や団体を選んで契約することが一番大切なことになります。
自分の人生の最期を委ねるわけですから、慎重に事を運んでみて下さい。
お願い致します。
“おひとりさまの最期”を支えてくれる3つの資産管理方法をご紹介します
終わり