働き盛りを苦しめる介護離職問題 親の介護 自分がやらないとダメですか?
はじめに
今回のブログのテーマは介護問題です。
今このブログをお読みになっているあなたは「介護」の経験がございますか?
『まだありません』という方もいらっしゃれば、『介護の事など考えたくもない』と思われている方たちもきっと多くいらっしゃることと思います。
まだ比較的若い世代の方たちはそう思われているのではないでしょうか。
反対に、ある一定の年齢に達すると『いや、私は介護を経験したことがあります。辛い経験でした』という方や、あるいは『今現在、親の介護をしています。
毎日が地獄のような苦しみです』というお気持ちを持たれている方たちも増えていると思います。
40~50歳代以上の年齢になると、いやが上にも自分の身に降りかかってくる大きな問題であることは間違いありません。
親や配偶者の介護は突然にやってくるものです。
「団塊の世代」の方たちが75歳の後期高齢者になる時代が目前に迫っています。
いわゆる2025年問題というものです。
75歳を過ぎると要支援や要介護の状態になる比率が高くなり、いやが上にも
「介護」が他人事ではなくなります。
突然の介護問題にどう備えたらよいのか、私たちは常日頃から知っておく必要があるのではないかと思い、今回の記事を書かせていただきました。
今回のブログでは、親などの介護に伴い発生する介護休業と「介護離職」問題、
また以前にも取り上げたことがある高齢者による介護職員への「パワハラ・セクハラ問題」、そして介護施設での高齢者に対する「虐待問題」など、大きな社会問題となっている案件について、ファイナンシャルプランナー (FP) として再度真剣に考えてみたいと思います。
目次
介護保険制度と介護休業の本質
介護保険 発足20年
2000年(平成12年) 4月に「介護保険制度」が始まって、早くも20年が経とうとしています。
かつて、高齢者の介護は家族の中で、”女性” 特に ”嫁” がするのが当然だと思われていた時代がありました。いや、今でもそう思われていることが多いようです。
それが、「介護保険制度」が発足したことによって、地域社会の中で介護の専門職も交えて、皆で高齢者を支える仕組みに変わっていきました。
介護問題が家庭から外に向かって開かれるようになり、親の介護を他人に頼むということが、恥や負い目ではなくなってきました。
そして高齢化社会が進むにつれて介護は女性だけの関心事ではなくなり、普通のサラリーマンも仕事や出世のことと同じ割合で親の介護を話題にする時代になっていきました。
こうして実際に働き盛りの世代が家族(親)の介護をしなければならないというケースが年々増えていっているのです。
正しい介護保険の使い方 「介護休業」の本質
多くの方が勘違いをしているようですが、「介護休業」というのは、実際に自分が介護をするために会社を休むことではありません。
正確に言うと、「介護準備休業」とでも言ったほうがいいでしょうか。
そのほうが、より介護休業の本質を捉えていると思います。
実は「介護休業」というのは、介護保険制度とは別に、「育児・介護休業法」という法律に基づいて、会社に勤務している者なら誰でも取得することができる権利であり、「自ら介護をするためではなく、早く仕事に復帰する仕組みづくりとしての介護計画を設計するための休みである」ということなのです。
介護休業は対象家族1人につき、通算して93日間の利用が可能で、最大3回に分割して取得することができます。
この休業期間中に、①ケアマネージャーを手配し、ケアプランを作成してもらう ②在宅介護に向けて自宅の改修をする ③介護施設へ入居するための引っ越しなどを行う ④専門家の介護を受けるために介護保険サービス事業者と契約を結ぶ ⑤介護福祉用具のレンタルをする、などの準備を行うわけです。
つまり、実際に介護するために自分が休むのではなく、介護の準備に専念し、介護環境を整えるために会社を休むのであって、実際の介護はプロのヘルパーや介護士などに任せることになります。
彼らのような専門職にデイサービスや訪問介護をお願いし、時々はショートステイなどの高齢者向けの自治体サービスご利用するということになります。
そのほうが効率的であり、こうすることによって仕事と介護を両立することができるようになるのです。 介護休業を行うことによって、介護に関する長期的な方針を決めたり、介護をするための体制を構築したりする期間として活用するという考え方が大事なのです。
介護するということには大変なエネルギーを必要とします。
しかしプロを交えたチームで行うことでそれを乗り越えることができるのです。
プロに任せるところは任せ、家族はコーディネーターつまり調整役を担うことにすれば良いのです。
このような考え方を持っていないと、『自分が介護しなければならない』という固定観念に凝り固まってしまい、やがては「介護離職」などの悲劇に追い込まれてゆくのです。
「介護離職」問題 もう悩まないで下さい
現代の日本では、老親の介護や看護のために仕事を辞めざるを得なくなった働き盛りの息子さんや娘さんたちが大量発生し、「介護離職」問題として大きな社会問題になっています。
早ければ30代から始まり、50代をピークに増え続けている「介護離職」の現状を考えてみたいと思います。
現在では、実に、年間約10万人を超える勢いで介護離職者が発生しています。
「介護離職」問題はもはや他人事ではありません 。
本来なら、親が介護状態になった時には介護施設などに預けることを考えるものなのですが、介護施設に空きがない場合があり、親を放っておくことはできないため、やむを得ず会社を辞めて自宅での介護を選択するというケースが増えています。
そうなると子どもは収入が絶たれ、頼れるのは親の年金のみということにもなりかねません。不足分は貯金を取り崩して埋め合わせをする他ありません。
さらに深刻なのは親が他界した後のことです。働いていない期間 (ブランク) が長くなるほど再就職のための仕事探しが難しくなり、介護離職前と同じ水準の収入を得ることはまず不可能になります。
このようなことを続けているとやがて貯金が底をつき、家計は破綻してしまいます。
このように介護離職は親子破綻の直接のきっかけとなり得るのです。
介護離職の現状
「介護と仕事の両立」に悩む人たちは今後ますます増加すると思われます。
民間の福祉研究所の「介護離職に関する調査」によると、介護と仕事の両立に板挟みになっている方たちのリアルな現実が浮き彫りになっています。
介護に専念している人たちの実に5割強は、介護開始から1年以内に離職しているのです。
離職の理由としては「介護のために仕事を休みがちになり、これ以上職場の仲間に迷惑をかけることができない」というものや、また「配偶者や親族に迷惑をかけて、自分の親の介護を任せるわけにはいかない」などといった日本人特有の生真面目な考え方が根底にあるようです。
でも、離職の最大のきっかけはやはり「自分以外に終日親を介護できる人がいない。だから選択の余地がない」ということのようです。
どれだけ充実した仕事をしていても親の介護となれば逃げようがなく、やむを得ず仕事を辞めるしかなくなるのが、現在の介護離職の実態なのです。
つい昨日まで会社や社会の中で重責を担って活躍していた人が、突然、身内の人の介護生活に入った瞬間から、「社会と隔絶されたところに来てしまった。
世の中からどんどん置いていかれる」といった不安や恐怖を抱いてしまうことも多いようです。
でも安心してください。そのような悲惨な事にならない方法があります。
それは簡単なことです。仕事を辞めなければいいのです。
仕事と介護を上手に両立させるのです。
これからは「仕事を辞めずに介護する時代」といわれているのです。
先に述べたように、実際の介護はプロの専門職に任せ、自分はコーディネーター
調整役だけに徹することにすれば良いのです。
介護休暇を取って介護をしてはいけない !
介護離職をせずに介護を続けるポイントは、「介護のために仕事を休まない」ということなのです。
介護休暇をとって自分で親の世話をすることは一番ダメなことです。
親の介護というのは長期戦になることが予想されます。
ですから休暇はいくらあっても足りないのです。
素人が親の側に常時付き添っていたからといって、親が満足する介護をすることなんてできません。
実際の介護はヘルパーさんやケア・マネージャーさんといった介護の専門職に任せて、彼らと充分なコミュニケーションを取りながら、彼らをコーディネートしていくこと、それが充実した介護の方法であり、「介護離職」を防ぐポイントだと思います。
親の日常の介護はプロの力を借り、子どもたちは旅行や趣味の活動など、家族にしかできない支援に力を注いでみたほうが良いのではないでしょうか。
さらに、実際にかかる医療費や介護費用というのは公的な健康保険や介護保険に加入していればどちらも自己負担は原則1割で済みます。
(※75歳以上の後期高齢者の場合です)
問題なのは保険の適用範囲外のサービスを受けていた場合のことです。
こちらは全額自己負担になってしまうので注意しましょう。
現実に介護に直面することになって慌てる前に、あらかじめ介護保険制度や会社の「仕事と介護の両立支援制度」について知っておくと、慌てずに行動できるようになるはずです。
介護離職をゼロにすることはできるのか?
政府も介護と仕事を両立させるため、「介護離職ゼロ」の目標を掲げて介護休業を分割して取りやすくし、休業中に受け取れる介護休業給付も増やすなど対策に乗り出していますが、いかんせん介護施設の整備が進まず、必要とされる介護人材が不足して職員を確保できないという問題も起きています。
現時点では介護と仕事の両立に悩む方たち、または介護離職や介護転職をした人たちにとっては、心理的、体力的、経済的負担は計り知れないものがあるのが現実なのです。ではどうしたら良いのでしょうか?
働き方の未来像
厚生労働省がまとめた『働き方の未来2035』という指針には、「未来の働き方」について次のような未来像が描かれています。
『将来的には、兼業や副業あるいは複業が当たり前になることによって、人々はより多様な働き方を実現することができるようになる。
また、一つの会社に頼り切る必要もなくなる。
このような働き方になれば、当然今とは違って、人は一つの企業に「就社」するという意識は希薄になり、専門的な能力を身につけて、専門的な仕事をするのが通常になるだろう。 もし「就社」することなく自宅でも仕事ができるようになれば、それによって「介護離職ゼロ」が現実に近づいて行く』と書かれています。
最近の政府による「働き方改革」の流れを見ていると、確かに中長期的にはそのような未来が実現する可能性は高いのかもしれません。
果たしてこのような「未来像」が現実のものとなるか、それとも単なる絵空事に終わるのかは、今のところ誰にも分からないことです。
結論として
介護と仕事の両立に悩んでいる方、介護のために離職を考えていらっしゃる方へ
介護を自分一人でやらなければならないという考えは絶対に持たないでください。
現在は、介護はプロを交えてチームで行う時代です。
介護離職はできるだけしないようにしましょう。
介護ハラスメント問題
私は以前、このブログサイトにおいて、介護現場におけるハラスメントが横行している問題があるということを取り上げたことがあります。
◎記事のタイトルとトップ画像 ↓
介護職のハラスメント被害と介護職による高齢者虐待 やりきれない気持ちになる負の連鎖
近年、介護現場では利用者やその家族等による介護職員への身体的暴力や精神的暴力、性的嫌がらせ (パワーハラスメント・セクシャルハラスメント) などが少なからず発生していることが様々な調査で明らかとなっています。
これは介護サービスが直接的な対人サービスであることが多く、利用者宅への単身での訪問や利用者の身体への接触も多いこと、訪問介護職員が女性である割合が高いこと、生活の質や健康に直接関係するサービスであるため簡単に中止できないことなどと関連があると考えられます。
そこで厚生労働省は今年 (2019年) 介護職員に対する利用者やその家族からの暴言や暴力などハラスメント行為を防ぐため、「介護事業者向けのハラスメント対策マニュアル」をまとめ、公表しました。
そのマニュアルの内容は、相談窓口の設置や研修の実施など、介護事業者の取り組みや、ハラスメント行為が許されないことを利用者らにも丁寧に周知することの重要性を強調するものになっています。
マニュアルではハラスメント行為が起きた時の初動対応や、再発防止策などを具体的に決めておくことを推奨しています。一部抜粋してご紹介しましょう。
事業者向けマニュアルで示された対応の例
・どんな行為がハラスメントに当たるのかを利用者らに適切に説明する。
禁止事項などを読み上げて説明し、わかりやすい表現を用いて繰り返すなど、伝え方を工夫すること。
・ハラスメントがあった場合の対応 (契約解除など) を契約書面に明記しておくこと。
・ハラスメントを未然に防止するために担当者を固定化せず、複数人で介護するなど、シフトを工夫すること。 また、職員の個人情報を利用者へむやみに伝えないこと。
・職員が被害を相談しやすい窓口を設置し周知すること
・ハラスメントの事例を共有し、そのときの適切な対応などを考える研修を実施すること。 など
以上のように事業者が適切に予防策や対応を実施できているかを確認するのに役立つマニュアルとなっています。
介護職員へのハラスメント被害を放置すれば、離職者の増加などで介護現場の人手不足がさらに深刻になりかねません。
厚生労働省はこの対策マニュアルを通じて全国の介護事業者が被害防止に向けた体制整備に役立ててもらいたいという考えのようです。
介護現場におけるハラスメント対策マニュアル をご覧いただくにはこちらへ
介護施設 高齢者虐待問題
介護職員が利用者からハラスメントを受けることと全く逆の問題として捉えられているのが、介護施設での介護職員による高齢入居者への虐待問題です。
最近も某老人ホームで虐待が疑われる死亡事件が発生し、元介護職員が逮捕されるという事件がありました。
老人ホームなどの介護の現場では職員が日常的に過重なストレスを抱えており、しばしば入居者への虐待が問題になっています。
高齢者施設職員らによる高齢入居者への虐待は年々増え続けており、昨年度は前年より12%も増加し、過去最多を更新しました。
これは介護現場における深刻な人材不足が背景にあると言われています。
過密勤務で職員の負担が重くなっており、心の余裕がなくなって感情が荒くなっていることが原因ではないかと考えられています。
高齢者が人生のゴールに向けて穏やかな日々を過ごすはずの施設で、優しく介護してくれるはずの職員らによる虐待は果たして防ぐことができるのでしょうか。
そしてもう一つ。この高齢者虐待問題の最大のポイントが、被害者の大部分が認知症を患っている人たちであるということです。
昨年度の虐待の被害者のうち実に82.2%の人に認知症があったのです。
そして、その虐待の原因として考えられているのが、利用者が認知症になってしまうと介護職員とコミュニケーションを取ることが難しくなり、さらに職員が知識や経験の乏しい人であれば利用者と意思の疎通ができないことにイライラし、感情を抑えることができなくなることではないかということです。
それで、ついつい虐待に走ってしまうのではないかと指摘されています。
実際、認知症の方を介護するということは非常に難しく、もちろん人や症状にもよりますが、認知症が進むにつれ暴言や暴行は日常茶飯時になります。
老人ホームなどの入居者の中には、普通の方でも「お金を払ってるんだから」と、
割と横柄で職員を見下すような態度を示す方たちがおりますが、認知症の方は更にそれに輪をかけてひどい言動をするようだという実例もあります。
つい最近も横浜市のデイサービス施設で介護士の男が90歳の高齢入居者を殴って重症を負わせたとして逮捕されましたが、容疑者は取り調べに対して次のような犯行の理由を述べています。
「相手からの暴言を我慢していたが、怒りが頂点に達して殴ってしまった」
介護職員だって一人の人間です。いくら相手が認知症だからといって、あまりにも酷い暴言を吐かれたらさすがに忍耐の限界を超えることもあるのではないでしょうか。
身体的弱者である高齢者を殴ることは決して許されない行為ではありますが、気持ちは分からないでもありません。認知症だから酷い暴言を吐くのは仕方がないことではないか、というわけにはいかないのです。
ですから施設側・職員側が泣き寝入りをすることはありません。
入居する時に本人とその保護者の方にはっきりと申し上げておき、契約書にも、
「職員に暴行暴言などの不適切な行為をした場合は施設を退去していただきます」
と、はっきり明記しておいたほうが良いと思います。
私は以前のブログで、「介護職員が介護施設で高齢入居者を虐待するのは、入居者から暴言・暴行などのハラスメントを受けているからではないか?」という疑問を投げかけたことがありましたが、やはり、この「利用者のハラスメント」と
「介護職員による虐待」の間には紛れもなく関係性があると考えざるを得ないという結論に至りました。
それらは負の関係であり、負の連鎖が続くのはある程度やむを得ないことなのではないかと今では考えています。
以上、最後に私の考えを述べさせていただきました。
長文にも係わらず、最後までお読みいただきまして本当にありがとうございました。
働き盛りを苦しめる介護離職問題 親の介護 自分がやらないとダメですか?
終わり